わかたんかそれ猿丸集に詠う富士の噴火

 さわやかな秋日和が続きました。上村 朋です。

 象徴天皇として三代目の時代が今年スタートしました。

 これからも、憲法の前文で掲げる、崇高な理想と目的を達成するよう、努力したいと思います。

 万葉・古今などの歌の異伝歌から成る歌集とされている『猿丸集』の歌のなかには、直前の時代の出来事を歌に用いているのもあります。

 貞観の富士の大噴火が、『猿丸集』の七番目に詠いこまれています(ブログ「わかたんかこれ  猿丸集 第7歌 ゐなのふじはら」(2018/3/19付け)より引用)。(噴火は付記1.参照)。

歌を、分かち書きして引用すると(付記2.参照)、

 

3-4-7  なたちける女のもとに(3-4-6歌と同じ)

   しながどり ゐなのふじはら あをやまに ならむときにを いろはかはらん

 私の現代語訳(試案)は、つぎのとおり。

「(詞書)噂がたった(作者が通っている)女のところへ(送った歌)

 しながとりが「率(ゐ)な」と誘う猪名の柴原(ふしはら)とちがい、富士の裾野の原が、新しい山にと変化するとなれば、その山の頂(噴火口)は色が鮮やかになるでしょうよ(私たちはそのようなことの起こらない「率な」に通じる猪名の柴原(ふしはら)にいるのだから、そのようなことになりません。噂にまどわされないようにしてください。)」

 

 この歌によく似た歌は古今集萬葉集に無くで、『拾遺和歌集』の「巻十 神楽歌」にあります。

1-1-586 しながどりゐなのふし原とびわたるしぎがはねおとおもしろきかな

 

 その現代語訳の例をあげます。

「猪名の柴原に、一面に飛ぶ鴫(しぎ)の羽の音は、風情があることだ。」

(『新日本古典文学大系 拾遺和歌集』)

 私の現代語訳(試案)は、つぎのとおり。

「しなが鳥が雌雄並んで遊ぶ場所、その猪名川に広がる原野に、渡り鳥のシギが飛びかっている。その睦みあう羽音は 興味深いなあ。」

(「ゐな」とは、地名の「猪名」であるとともに、「動詞「率る」の未然形+終助詞「な」(誘う意)」であり、「率な」とは、「引き連れてゆこう、行動をともにしよう(共寝をしようよ)」と誘っている意)(付記3.参照)

 

 富士山の貞観の噴火状況は周知のことだったようです。拾遺集の歌とは全く別の歌になっています。

 明治以降の磐梯山の大噴火や度々噴火をしている桜島なども、現代の歌人や恋人たちはどのように利用しているのでしょうか。世界中の噴火のことも詠まれていると思います。

 ご覧いただき、ありがとうございます。(2019/11/12 上村 朋)

付記1.当時の富士山の大噴火は、延暦19年(800)、貞観6年(864 青木ヶ原溶岩を形成)の2回。貞観地震は、貞観11年(869)。陸奥国にあるという「末の松山」も当時和歌に詠われている。

付記2.「3-4-7」とは、『新編国歌大観』の巻数―その巻での当該歌集の番号―当該歌集での歌番号。

付記3.似た歌は、『神楽歌』として今日伝わっている歌にもある。

「しながとる  や  猪名の柴原 あいそ  飛びて来る 鴫が羽音は 音おもしろき  鴫が羽音」

(付記終り。2019/11/12 上村 朋)