以前(2020/1/27)、「わかたんかこれ 猿丸集と後撰集の詞書その1」と題して記しました。
今回、「わかたんかこれ 猿丸集と後撰集の詞書その2」と題して、記します。(上村 朋)
1.~7.承前
(『猿丸集』という書名を検討し、「猿丸」という古の歌人名により、類似歌が新解釈であることを示唆している歌集か、と推測した。次に、『猿丸集』の編纂方針を詞書から検討するため、恋の歌が多いので三代集の恋の部の詞書と比較することとした。巻第一春歌上は詞書から編纂方針が推測できた『古今和歌集』巻第十五恋五は、題しらずという詞書を中立の詞書とみると、大変少ない詞書のみから歌群の推定ができ、歌群の並び方まで歌本文を含めて検討した歌群とその並べかたの推測と重なるところがあることがわかった。また三代集の恋の部の詞書の種類と比較すると、『猿丸集』の詞書は、「返し」が無いなど特色があることがわかった。)
8.後撰集巻十三の詞書の特徴その2
① 再度『後撰和歌集』巻第十三恋五と巻第十四恋六の詞書を検討します。贈答をしているという書き方が多い詞書(作者名を含む)であるので、対となる歌の有無と歌の作者の性別を確認し歌群を推測します。
② 歌集の詞書は、『古今和歌集』の例によれば次のような原則により記されている、とみることができます。また、これまでの『後撰和歌集』の検討からの推測をも原則の一つと仮定します。それに基づき検討します。
第一 「題しらず」という詞書は、直前の詞書に準じる意か、あるいは、前後の詞書の内容に中立的ではないか。
第二 「返し」という詞書は、直前の詞書と対を為し、直後の詞書とは関係ない詞書である。
第三 元資料の歌の詞書は、参考にすることがあっても、忠実に採用していない。つまりその歌集の編纂方針に従い、歌の趣旨を示唆する語句が選ばれており、前後の詞書とのバランスが優先している。
第四 従って、用語は巻を通じて統一されているはずである。
第五 編纂方針によって歌群が配列されているので、そのヒントが詞書にある。ヒントは『古今和歌集』では「歌を詠んだ動機につながる情景の記述の詞書」にあった。
第六 これまでの『後撰和歌集』の検討より、各歌群の最後の歌は、「返し」の歌のみにあるのではない。
第七 『後撰和歌集』のこの巻は男女の贈答歌が多く、配列の方針が詞書にはっきりでているのではないか。
③ 巻第十三の各歌の詞書を、特に第七に留意してその対の一組の歌の情景を浮かべるよう検討しました(付記1.参照)。なお、上記の第一と第三は、歌本文あるいは元資料と比較して判断することなので詞書のみの検討では割愛します。
一組には、つぎの3タイプを想定して検討しましたが、巻第十三は、恋の進捗のある断面の歌のみを担っている巻と判定できませんでした
贈答歌としてやりとりした歌2首が一組の歌(『後撰和歌集』に共に記載)
『後撰和歌集』未記載の歌に対する対の歌(返歌)1首で一組となる歌(返歌のみ記載)
贈答歌として起草した歌1首のみで記載を割愛した返歌と一組となる歌(起草の歌のみ記載)
④ 詞書を比較すると、特色あるものがあります。
1-2-893歌 つれなく見え侍りける人に よみ人しらず
1-2-906歌 女に物いふ男二人ありけり 一人が返事すと聞きて、今一人がつかはしける
1-2-913歌 人のもとにはじめてまかりて、つとめて、つかはしける
1-2-987歌 白き衣など着たる女どものあまた月明きに侍りけるを見て、朝に一人がもとにつかはしける
これらの歌は男女の仲の進捗段階でいうと、1-2-893歌は前後の詞書が「題しらず」なので次にある情景を記す詞書(1-1896歌)と比較すると恋の進捗段階が同じか逢う前と推測可能です。いずれにしても巻第十三の最初の歌群の歌であろう、と思います。
1-2-906歌の詞書の内容ではまだ一度も逢っていない段階です。そして直前の歌1-2-905歌の詞書は、門前まで行って逢えないで戻るという時点(一度は逢っている仲の時点)を示しており、恋の進捗段階(あるいはパターン)が明らかに異なります。1-2-913歌と1-2-987歌の詞書も同様に直前の歌の詞書とは恋の進捗段階(あるいはパターン)が明らかに異なります。
そうすると、巻十三は、恋の進捗のある断面に関しての歌のみを記載しているのではなく、男女の仲の発端から離別・絶縁までを含んだ挿話を(あるいはモデルパターン別に)並べているのではないか、と推測できます。
⑤ また、男女の仲というより友人・上司相当の人との歌の交換にもとれる詞書があります。
1-2-909歌 一条がもとに・・・ 一条(京極御息所に仕えていて、後壱岐守の妻となる)
この歌の返し(1-2-910歌)は伊勢であり、二人とも女性です。
1-2-949歌 左大臣河原に出であひて侍りければ 内侍たひらけい子(内裏女房)
この歌は、左大臣を河原で目撃したというよりも左大臣家の者が河原で何事かしていたのに遭遇し、職務上知っていたので通り過ぎることをせず挨拶をした歌か、と思えます。推測するに、公式の行事ではなく、水無月の祓の光景などではないでしょうか。
1-2-950歌 大輔につかはしける 左大臣(未詳)
この歌は、職務上知っている内裏女房である大輔(醍醐天皇の皇子保明親王の乳母か)に贈った歌ではないか。男女の仲における歌という理解より職務に際しての儀礼的な歌の可能性があります。
1-2-952歌 左大臣につかはしける 中務(敦慶親王と伊勢の間の娘。源信明との関係が最も長い。内裏に出仕していたか)
この歌も、勤務上で知っていた(上司相当の)男への挨拶歌と推測します。
1-2-959歌 御匣殿(みくしげどの)の別当につかはしける 清蔭の朝臣(延長3年(924)臣籍降下。天暦4年(950)没67歳。)
この歌も、職務上知った女に送っている歌と理解できます。また恋の歌とみた場合、初期の進捗段階とは決めかねます。
⑥ また、詞書において、「(人名・職名)につかはす・つかはしける」とある歌は、作者名が男の固有名詞です。 (1-2-950 1-2-952 1-2-953 1-2-959) それに対して、「(女に)つかはしける 」とか「(女のもとに)つかはしける」とある歌は作者名がよみ人しらずです(1-2-926 1-2-946 1-2-988)。
このことも、職務上で知った女に送っている歌とも理解できる歌を、恋部の歌に援用したのではないか、という推測を助けます。
⑦ このため、巻第十三が、歌群により構成する編纂方針ならば、少なくとも1-2-906歌と1-2-913歌と1-2-987歌で歌群が改まるということを踏まえた男女の仲の挿話(あるいはモデルパターン別)を配列しているとみることができ、詞書のみから、例えば次のような歌群の推測が可能になります。歌群は男からみたケースで整理してみました。
1-2-891歌~1-2-901歌:男のアプローチから逢って後、疑われて女が別れるまで
1-2-902歌~1-2-905歌:逢う仲になってから疑われて女に愛想尽かしれるまで
1-2-906歌~1-2-912歌:逢えない状態から生じる事柄
1-2-913歌~1-2-921歌:初めて逢って後、通うのがままならず別れるまで
1-2-922歌~1-2-930歌:よんどころない事情が生じた場合のなりゆき
1-2-931歌~1-2-942歌:男の心変わりを発端としたなりゆき
1-2-943歌~1-2-954歌:久しく訪れなくなった場合
1-2-955歌~1-2-963歌:相愛と信じている場合
1-2-964歌~1-2-972歌:女が家に入れなくなってから以後
1-2-973歌~1-2-976歌: 通う日に雨となった場合
1-2-977歌~1-2-986歌:別れた相手が気になった場合
1-2-987歌~1-2-993歌:月夜に見染めた女との場合
9.後撰集巻十三の歌群の確認例
① 詞書より推測した歌群(のネーミング)を、歌本文でいくつか確認してみます。その際の歌本文の理解は、『新日本古典文学大系6 後撰和歌集』に原則よっています(次の巻第十四も同じ)。
最初の歌群を確認します。
巻第十三の巻頭歌1-2-891歌の詞書は「題しらず」、次の歌の詞書は「返し」、とあり、歌本文は、「伊勢の海」と「みるめ」を共に用いた男女間の贈答歌と認められます。一組の歌として『後撰和歌集』編纂者がここに配列したのは、歌の趣旨によっているのであろう、と推測します。
あなたを見る機会を得たいという歌に対して、返しの歌はいい加減な人にはその機会がない、と応えています。返事をしたのですから、交際の条件を提示したことになります。二人の文の交換が始まった、とみなせます。
その次の1-2-893歌の詞書からは、今のところその交際の条件を満たすような男ではないものの女はその男に期待をかけており、以下1-1-901歌まで逢って後も期待はずれの男を相手としているとも理解できます。最初の歌群のネーミングで、歌本文の理解が可能です。
② 二番目の歌群は1-2-902歌から始まります。逢うものの「忍びたる人」という限定が、最初の歌群の歌と異なります。1-2-904歌の詞書にいう「つらうなりゆく頃」は疎遠の仲を作者は自覚し、1-2-905歌では相手を拒否してしまいました。しかし1-2-906歌における男女の仲は、逢う以前であり、別の挿話のスタートとなりますので、1-2-905歌までが一つの歌群となるのは歌本体から妥当ではないか、と思います。
③ 一つの歌群の最後の歌とした1-2-942歌と別の歌群の最初の歌とした1-2-943歌の背景も歌本文によればはっきり異なります。1-1-954歌までの女性の歌は、通いが途絶えていることを前提にした歌ととれます。
④ 次に、1-2-955歌は、初句「目もみえず」は「妻もみえず」を掛けていると理解すると、「あなた(妻)が見放したら私はうろうろするばかりだ」と裏切る気持ちがないことを言ったものの、妻に「私以外の方の愛情で十分でしょう」(1-2-956歌)と切り返されています。相愛だと言ったら相愛の相手が違うのでは、と言い返している一組となります。歌群のネーミングの範疇の歌になります。
⑤ 1-2-973歌から1-2-976歌のうち1-2-975歌は、雨の日に援用した歌とみなければならない歌となり、また、歌群のネーミング(「通う日に雨となった場合」)の視点が他の歌群と異なるのが歌本文からは気になります。
⑥ しかし、詞書のみからの歌群のこの並べ方(順番)に対して何の仮説も示せませんでした。
上記8.の②の第七の仮説の立証はできていません。歌本文において「未載の歌」を補って理解するというのは、歌集としてはおかしなことであるかもしれません。同一の語句が連続して歌に登場するところもあり、詞書のほかからも編纂方針を考察する方法がありそうです。上記8.の②の第五にいう編纂方針は不分明のままです。
10.後撰集巻十四の詞書の特徴
①『後撰和歌集』巻第十四恋六の詞書によって、巻第十三と同様な検討をする(付記2.参照)と、次のような歌群を詞書から推測できます。
1-2-994歌~1-2-1002歌:押しかける男の場合
1-2-1003歌~1-2-1011歌:久しく逢っていない場合
1-2-1012歌~1-2-1017歌:なかなか言い出せない男の場合
1-2-1018歌~1-2-1026歌:女に嫌われている場合
1-2-1027歌~1-2-1033歌:男が既にいる女の場合
1-2-1034歌~1-2-1038歌:女が避けようとしている男の場合
1-2-1039歌~1-2-1047歌:したたかな女の場合
1-2-1048歌~1-2-1055歌:再び久しく逢っていない場合
1-2-1056歌~1-2-1066歌:女を捨てた場合
1-2-1067歌~1-2-1074歌:相愛と信じている場合
②
② 巻第十四の歌本文で、この歌群を検討すると、それぞれは同一の歌群と言えますが、巻第十三と同様に男女の仲の挿話を、何らかの基準で並べている、としか指摘できません。
それでも、詞書のみでも前後の関連を推測する手掛かりにはなる、と思います。
「わかたんかこれ 猿丸集・・・」をご覧いただきありがとうございます。
次回は、『猿丸集』成立以前のもう一つの勅撰集『拾遺和歌集』の詞書を検討したい、と思います。
(2020/2/17 上村 朋)
付記1.後撰集巻第十三 恋五の詞書からの検討
表 後撰集巻第十三 恋五の詞書から推定した対の歌と作者の性別及び歌群推測
(2020/2/17 現在 )
一組の最初の歌番号等の詞書の有無と作者の性別 |
ペアとなる歌番号等と作者の性別 |
備考1 |
一組の最初の歌の作者からみた相手 |
1-2-891 題しらず(男) |
1-2-892 返し(女) |
|
? |
1-2-893 詞書有(不定) |
無し |
「人」は不定 |
冷淡な人へ |
1-2-894 題しらず(不定) |
無し |
|
? |
1-2-895 詞書割愛(女) |
無し |
|
? |
1-2-896 詞書有(男) |
無し |
|
怨んできた女へ |
1-2-897 詞書有(女) |
無し |
|
まだ信頼できない男へ |
1-2-898 題しらず(不定) |
無し |
|
? |
1-2-899 詞書有(男) |
1-2-900 返し(女) |
|
追い返された女へ翌朝 |
1-2-901 詞書有(男) |
無し |
|
逢ってのち避けている女へ |
1-2-902 詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
世間に隠している女へ |
未載の歌(女) |
1-2-903 詞書有(男) |
|
仲が噂になったのに黙っている男へ |
1-2-904 詞書有(女) |
無し |
|
遠のきはじめた男へ |
1-2-905詞書有(男) |
無し |
|
追い返された女へ翌朝 |
1-2-906 詞書有(男) |
無し |
|
競争相手には返事したという女へ |
1-2-907 詞書有(男) |
無し |
|
心変わりした女へ |
1-2-908 詞書有(男) |
無し |
今後手紙も遠のく |
文通後に親に従った女へ |
1-2-909 詞書有(女) |
1-2-910 返し(女) |
|
逢いたい相手へ
|
未載の歌(女) |
1-2-911詞書有(男) |
「人」は男 消息ありける返事に |
忍んで通っている男へ冷淡にみえる態度で |
1-2-912 詞書有(男) |
無し |
女つれなし |
通っていた女が居留守をつかったので、その女へ |
1-2-913 詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
初めて通った女へ翌朝 |
1-1-914 詞書有(男) |
1-2-915 返し(女) |
|
通うのを臨時に中止した後女へ |
1-2-916 詞書有(男) |
無し |
|
通うのをやむを得ず中止していた女へ |
未載の歌(女) |
1-2-917詞書有(男) |
|
急ぐ男へ |
1-2-918 題しらず(不定) |
無し |
|
? |
未載の歌(男) |
1-2-919 詞書有(女) |
|
文をくれた女へ |
1-2-920 題しらず(女) |
無し |
|
? |
1-2-921 詞書割愛(不定) |
無し |
|
? |
1-1-922 詞書有(男) |
1-2-923 返し(女) |
|
病で通うのをやむを得ず中止しだいぶたってから女へ |
未載の歌(不定) |
1-2-924 詞書有(不定 ) |
「人」は不定
|
作者が怨んでいる相手へ |
未載の歌(不定) |
1-2-925 詞書割愛(不定) |
「人」は不定 |
作者が怨んでいる相手へ |
1-2-926 詞書有(男) |
無し |
|
? |
1-2-927 詞書有(男) |
無し |
|
事情が生じてあきらめた女へ |
1-2-928 詞書有(女) |
無し |
|
あきらめてと一旦言った男へ |
1-2-929 題しらず(男) |
1-2-930 返し(女) |
|
? |
1-2-931 詞書有(男) |
1-2-932 返し(女) |
|
文の往来のある女へ |
未載の歌(女) |
1-2-933 詞書有(男) |
|
浮気を疑い男へ |
1-2-934 詞書有(女) |
無し |
|
遠のきはじめた男へ 扇にかきつけて |
未載の歌(男) |
1-2-935 詞書有(女) |
|
忍んで通っている女へ |
1-2-936 詞書有(女) |
無し |
|
遠のいた男へ |
未載の歌(男) |
1-2-937 詞書有(女) |
|
親が邪魔をする相手へ |
未載の歌(男) |
1-2-938詞書有(女) |
|
通うのをやむを得ず中止した女へ |
1-2-939詞書有(女) |
無し |
|
宿泊してほしいのに帰ってしまった男へ |
未載の歌(女) |
1-2-940詞書有(男) |
|
やむを得ず通えなくて久しぶりにきた男へ なじって |
1-2-941 詞書有(男) |
無し |
|
通うのを女の周りの人が妨げている女へ |
1-2-942 詞書有(女) |
無し |
|
別の女ができて通うのが遠のいた男へ |
1-2-943 詞書有(不定) |
無し |
「人」は不定 |
世間に隠れた関係の相手へ |
1-2-944 詞書有(女) |
1-2-945 返し(男) |
「人」は男 |
地方勤務を機会に都に戻ってからも遠のいた男へ |
1-2-946 詞書有(男) |
1-2-947 返し(女) |
|
? |
未載の歌(女) |
1-2-948 詞書有(男) |
「いふ人」は男 「人も」の人は世間 |
噂されているから来ないでと男へ |
1-2-949 詞書有(女) |
無し |
|
外出中に出会った挨拶歌 |
1-2-950詞書有(男) |
1-2-951 返し(女) |
|
? |
1-2-952詞書有(女) |
無し |
|
? |
1-2-953 詞書有(男) |
無し |
|
? |
1-2-954詞書有(不定) |
無し |
|
贈り物につけた挨拶歌 |
1-2-955 詞書有(男) |
1-2-956 返し(女) |
|
最愛の女へ 濡れ衣という |
1-2-957 題しらず(男) |
1-2-958返し(女) |
|
? |
1-2-959詞書有(男) |
無し |
|
? |
1-2-960詞書有(男) |
無し |
|
相愛の女へ |
1-2-961詞書有(男) |
無し |
|
相愛の女へ |
未載の歌(女) |
1-2-962詞書有(男) |
|
病死すると相愛の男へ |
1-2-963詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
年を経て冷たくなったきた女へ 菊につけて |
未載の歌(女) |
1-2-964詞書有(男) |
「人」は女 |
門前まで行ってから断られた女へ |
1-2-965詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
門前まで行ってから断られた女へ |
1-2-966詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
文を出すもののらちのあかない女へ |
1-2-967詞書有(男) |
1-2-968 返し(女) |
|
文を出すものの冷淡な応対を続ける女へ |
1-2-969詞書有(不定) |
1-2-970 返し(不定) |
「人」は不定 |
返事もくれない相手へ |
1-2-971詞書有(不定) |
無し |
|
文をだし続け3年になった相手へ |
1-2-972 題しらず(不定) |
無し |
|
? |
1-2-973 詞書有(不定) |
1-2-974 返し(不定) |
「人」は不定あるいは女か |
? |
1-2-975詞書有(男) |
無し |
|
通っていったが門前で断ってきた女へ |
未載の歌(男) |
1-2-976詞書有(女) |
|
門前まで来てこの大雨を理由に通えないと女へ |
1-2-977詞書有(不定) |
無し |
「人」は不定 |
作者を忘れてしまった相手へ |
1-2-978詞書有(不定) |
1-2-979 返し(不定) |
「人」は不定(女か) |
すっかり忘れてしまっていた相手のところに出向いて |
未載の歌(男)
|
1-2-980詞書有(女) |
|
昔文を交換していたが思い出してまた文を出したところの女へ |
1-2-981詞書有(女) |
1-2-982返し(男) |
984まで一連 |
別の男に走ったがまだ未練のある昔男へ |
1-2-983詞書有(女) |
1-2-984返し(男) |
|
別の男に走ったがまだ未練のある昔の男へ |
1-2-985詞書有(男) |
1-2-986返し(女) |
|
思い出して訪ねた後に女へ |
1-2-987詞書有(男) |
無し |
|
見染めた女へ |
1-2-988詞書有(男) |
無し |
|
? |
1-2-989 題しらず(不定。 991により男となる) |
1-2-990返し(不定。以下の歌により女となる) |
993まで一連 |
? |
1-2-991詞書有(男) |
1-2-992返し(女) |
|
? |
1-2-993詞書有(男) |
無し |
|
|
- 注1:歌番号等:『新編国歌大観』の巻数-当該巻での歌集番号―当該歌集での歌番号
- 注2:ペアの歌の判定は詞書(作者名を含む)のみによるので、歌本文を加えた理解と異なる場合が有る。
- 注3:「一組の最初の歌の作者からみた相手」欄の判定も、歌本文を加えた理解と異なる場合が有る。
- 注4:「一組の最初の歌の作者からみた相手」欄の「?」は、「女につかはしける」、「右近につかはしける」等男女の仲の進捗の幅が限定できない意を表す。単なる挨拶歌かもしれないし、歌本文次第となる。
- 注5:詞書が「題しらず」:作者名まで詞書とみて作者名があればそれに従う。「返し」の詞書の直前であればそれに従う(1-2-929、の詞書)。それ以外は不定。
- 注6:詞書が「返し」は、直前の歌の作者と異なる性と推定する。
- 注7:詞書が「・・・返事に」で終わる場合は、後撰集未載の歌の返歌とみて、その未載の歌とペアと整理した。(1-2-911, 1-2-924,詞書割愛の1-2-925の3首の詞書) 次の場合も同じ。
詞書が「言ひだしたりければ」で終わる場合(1-2-964の詞書)
詞書が「言ひだして侍りければ」で終わる場合(1-2-917、の詞書)
詞書が「・・・返り事につかはしける」で終わる場合(1-2-919、の詞書。ただし1-2-931を除く)
詞書が「・・・など申たりければ」で終わる場合(1-2-933)
詞書が「・・・消息つかはしたりければ」で終わる場合(1-2-935)
詞書が「・・・とぶらひて侍りければ」で終わる場合(1-2-980)
- 注8:詞書が「女(のもと)につかはしける」で終わる場合は、恋の状況が不明だが、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-926,1-2-946,1-2-988,の詞書)
- 注9:詞書が単に「(人物名または人)につかはしける」で終わる場合は、恋の状況が不明だが、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-950,1-2-952,1-2-953,1-2-959,1-2-960,1-2-973,の詞書)
- 注10:詞書が「忍びたる人につかはしける」で終わる場合は、まだ逢えていない状況だが、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-902,の詞書) 詞書が「忍びたる人に」で終わる場合も、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-943,の詞書)
- 注11:詞書中の「消息」(しょうそこ)の意は、伝言あるいは手紙(1-2-911の詞書),伝言(1-2-931の詞書),来意を告げること(1-1-935の詞書)、と理解した。
・注12:備考欄の「人」とは詞書にある文字であり、ペアの歌の詞書を参考に性別を判定した。
付記2.後撰集巻十四の詞書による検討
表 後撰集巻第十四 恋六の詞書から推定した対の歌と作者の性別及び歌群推測
(2020/2/17 現在)
一組の最初の歌番号等の詞書の有無と作者の性別 |
ペアとなる歌番号等と作者の性別 |
備考1 |
一組の最初の歌の作者からみた相手 |
1-2-994 詞書有(不定) |
1-2-995 返し(不定) |
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? |
1-2-996 詞書有(男) |
無し |
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一方的に行き語りあかしただけの翌朝女へ |
1-2-997 詞書有(男) |
1-2-998 返し(女) |
「人」は女 |
? |
1-2-999 詞書有(男) |
1-2-1000 返し(女) |
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断られた後だいぶたってからまたその女へ |
1-2-1001 詞書有(女) |
1-2-1002 返し(男) |
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言い寄ろうと頻繁に来る男へ 人の目を気にして |
1-2-1003 詞書有(女) |
1-2-1004 返し(男) |
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久しく訪れない男へ |
1-2-1005 詞書有(女) |
無し |
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逢って後門前を通るだけになった男へ |
未載の歌 (男) |
1-2-1006 詞書有(女) |
逢って後に |
文を2年もやらずにいた女へ |
1-2-1007題しらず(不定) |
無し |
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? |
1-2-1008 詞書有(男) |
無し |
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なかなか先にすすませない女へ |
未載の歌 (男) |
1-2-1009詞書有(女) |
女の返事 |
すでに親しい男がいる 女へ、それをしらずに |
未載の歌 (女) |
1-2-1010 詞書有(男) |
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忍んだ関係にある男へ(催促する) |
未載の歌 (男) ?? |
1-2-1011 詞書有(女) |
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途絶えていたが雨の日傘を貸せと女へ |
1-2-1012 詞書有(男) |
無し |
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初めて文をわたす女へ |
未載の歌(女) |
1-2-1013 詞書有(男) |
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自分から途絶えさせておいてまた文をよこした男へ 飛鳥河のこころをいう |
1-2-1014 詞書有(男) |
1-2-1015 返し(女) |
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思い(火)を募らせている女へ |
1-2-1016 詞書有(女) |
無し |
1-1-937参照 |
親にとめられ前に進めない言い交した男へ |
1-2-1017 詞書有(男) |
無し |
「人」は男
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密かに思っている同僚の女へ(落とし物として) |
未載の歌 (女) |
1-2-1018詞書有(男) |
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人目を理由に断った男へ |
1-2-1019題しらず(不定) |
無し |
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? |
1-2-1020詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
1-2-1021詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
1-2-1022 詞書有(男) |
無し |
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結局他の男をとった女へ |
1-2-1023 詞書有(不定) |
無し |
1-1-954参考 |
別れていった相手へ 預かっていた笛とともに |
未載の歌 (女) |
1-2-1024 詞書有(男) |
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菅原大臣家に居た自分に仲がたえていた男が文をくれたので |
1-2-1025 詞書有(女) |
1-2-1026 返し(男) |
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嫌っているのに言い寄ってきた男へ |
1-2-1027 詞書有(男) |
無し |
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挨拶歌か |
1-2-1028 詞書有(男) |
無し |
「人」は男 |
言い寄る男がいるという 女へ |
1-2-1029詞書有(女) |
1-2-1030 返し(男) |
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雨の日呼んだけれど来なかった男へ |
未載の歌(女) |
1-2-1031詞書有(男) |
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期待をちらつかせて男へ |
1-2-1032詞書有(女) |
無し |
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密かに逢っている男から来ると言ってよこしてこなかったので |
未載の歌 (女) |
1-2-1033 詞書有(男) |
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関係を公にするなと男へ |
1-2-1034 詞書有(男) |
1-2-1035 返し |
「人」は女 |
宇多院に出仕していて返事をよこさない女へ |
1-2-1036 詞書有(男) |
無し |
「人」は女 |
冷酷な女へ |
1-2-1037 詞書有(男) |
無し |
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立ち寄ったら逃げて逢わない女へ |
1-2-1038 詞書有(男) |
無し |
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通っていたが逢わなくなった女へ |
1-2-1039 詞書有(男) |
無し |
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初めて逢って翌朝に女へ |
1-2-1040 詞書有(女) |
1-2-1041 返し(男) |
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訪れが途絶えてしまった男へ |
1-2-1042 詞書有(男) |
1-2-1043 返し(女) |
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訪ねたら男がいた女へ、帰って後 |
1-2-1044 詞書有(男) |
無し |
「人」は女か |
? |
1-2-1045 詞書有(女) |
無し |
「人」は男 |
話し相手の状況から先に進まない男へ |
1-2-1046 詞書有(男) |
1-2-1047 返し(女) |
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逢った後に女へ |
未載の歌(男) |
1-2-1048詞書有(女) |
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予定を女に伝えて(結局行けかなかった) |
1-2-1049 詞書有(女) |
無し |
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久しく通ってこない男へ |
1-2-1050 詞書有(男) |
1-2-1051 返し(女) |
「人」は女 |
誘ってきた久しく通っていない女へ |
1-2-1052詞書有(男) |
1-2-1053 返し |
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同室している女へ |
1-2-1054詞書有(女) |
無し |
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夏の装束を送るついでに 男への挨拶歌 |
未載の歌(男) |
1-2-1055詞書有(女) |
「人」は男 |
久しく通っていない女へ今夜行くと言う( しかし行けなかったので返歌あり) |
1-2-1056 詞書有(男) |
1-2-1057 返し |
「人」は女 |
最初はダメになり別の女と仲良くなって後最初の女へ 改めて扇につけて |
1-2-1058 詞書有(不定) |
無し |
「人」は不定 |
逢うことに至らず忘れられた相手へ |
1-2-1059題しらず(不定) |
無し |
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? |
1-2-1060詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
1-2-1061詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
1-2-1062 詞書有(不定) |
無し |
「人」は不定 |
頼りにしていた相手へ |
1-2-1063 詞書有(男) |
無し |
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? |
1-2-1064題しらず(不定) |
無し |
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? |
1-2-1065詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
1-2-1066詞書割愛(不定) |
無し |
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? |
未載の歌(女) |
1-2-1067詞書有(男) |
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浮気の疑いのあの男へ |
1-2-1068詞書有(女) |
無し |
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十月降雪ありしとき久しく通ってこない男へ |
1-2-1069詞書有(女) |
無し |
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十月に 挨拶歌 |
1-2-1070詞書有(男) |
1-2-1071 返し(女) |
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怨んで親元に戻った女へ 雪の翌日迎えの車につけて |
1-2-1072詞書有(男) |
1-2-1073 返し(女) |
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逢い難い状況の相思の女へ 雪の降る日 |
1-2-1074詞書有(男) |
無し |
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12月31日に女 |
- 注1:歌番号等:『新編国歌大観』の巻数-当該巻での歌集番号―当該歌集での歌番号
- 注2:ペアの歌の判定は詞書(作者名を含む)のみによるので、歌本文を加えた理解と異なる場合が有る。
- 注3:「一組の最初の歌の作者からみた相手」欄の判定も、歌本文を加えた理解と異なる場合が有る。
- 注4:「一組の最初の歌の作者からみた相手」欄の「?」は、「女につかはしける」、「人(女)のもとにつかはしける」等男女の仲の進捗の幅が限定できない意を表す。単なる挨拶歌かもしれないし、歌本文次第となる。ただし「返し」の歌があれば、「逢って後」とする。
- 注5:詞書が「題しらず」:作者名まで詞書とみて作者名があればそれに従う。「返し」の詞書の直前であればそれに従う。それ以外は不定。
- 注6:詞書が「返し」は、直前の歌の作者と異なる性と推定する。
- 注7:詞書が「・・・返事に」で終わる場合は、後撰集未載の歌の返歌とみて、その未載の歌とペアと整理した。また、つぎのような詞書も同じように整理した。
「・・・いひて、まかりけるに(送った)」(1-2-1006,の詞書)
「・・・といひて こざりければ」(1-2-1048の詞書)
「・・・返事につかはしける」(1-2-1009の詞書)
「・・・いひて侍りければ」(1-2-1018の詞書)
「・・・とひて侍りければ」(1-2-1024の詞書)
「・・・をこせて侍りければ」(1-2-1031の詞書)
「・・・といへりければ」(1-2-1033の詞書)
「・・・と申て、こざりければ」(1-2-1055の詞書)
「・・・と女のいひたりければ、つかはしける」(1-2-1067の詞書)
「・・・と申たりければ」(1-2-1010の詞書)
「・・・をいひつかはして侍りければ」(1-2-1013の詞書)
・注8: 詞書が「女(のもと)につかはしける」で終わる場合は、恋の状況が不明だが、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-997, 1-2-1046, 1-2-1063,の3首の詞書)
・注9: 詞書が単に「(人物名または人)につかはしける」で終わる場合は、恋の状況が不明だが、ペアの最初の歌の詞書と整理した。(1-2-997, 1-2-1012,1-2-1044,の3首の詞書)
・注10: 備考欄の「人」とは詞書にある文字であり、ペアの歌の詞書を参考に性別を判定した。
・注11:「いひわぶ」とは動詞「いふ」+補助動詞「わぶ」なので、「言い寄るのがたやすくできなくて困る」即ち「文を渡そうにもなかなかできなくて」の意(1-2-1006,1-2-1008, の詞書)
・注12: 「いひわづらふ」とは、「言い寄るのが面倒になる」の意(1-2-1013,1-2-1056の詞書)
・注13: 「頼めたりける人」とは、下二段活用の動詞「頼む」連用形+完了の助動詞「たり」連用形+回想の助動詞「けり」+名詞「人」。その意は「約束をして頼みに思わせていたのだった相手」。(1-2-1062 の詞書)
(付記終り 2020/2/17 上村 朋)