前回(2018/8/27)、 「猿丸集第27歌 ともなしにして」と題して記しました。
今回、「猿丸集第28歌その1 類似歌の歌集」と題して、記します。(上村 朋)
1. 『猿丸集』の第28歌 3-4-28歌とその類似歌
① 『猿丸集』の28番目の歌と、諸氏が指摘するその類似歌を、『新編国歌大観』より引用します。
3-4-28歌 物へゆきけるみちに、ひぐらしのなきけるをききて
ひぐらしのなきつるなへに日はくれぬとおもへばやまのかげにぞありける
3-4-28歌の類似歌 1-1-204歌 題しらず よみ人知らず
ひぐらしのなきつるなへに日はくれぬと思ふは山のかげにぞありける
② 清濁抜きの平仮名表記をすると、四句の一部と、詞書が、異なります。
③ これらの歌も、趣旨が違う歌です。この歌は、夕方の外出時の出来事の歌であり、類似歌は、夕方が近づく建物内の出来事の歌です。
2.類似歌の検討その1 巻第四秋歌上の元資料の分析方法
① 現代語訳を諸氏が示している類似歌を、先に検討します。
類似歌は、『古今和歌集』巻第四秋歌上にあります。この巻には、『猿丸集』の類似歌がこの1-1-204歌を含め6首あります。
この類似歌の検討に際し巻第四秋歌上にある全80首の配列を検討しておきたい、と思います。
② 『古今和歌集』は、醍醐天皇が多くの歌人に「歌集幷古来旧歌」を奉らせて(真名序)成っています。その元資料のうち、「古来旧歌」は、朝廷の行事や官人の生活に密接していた歌であるからこそ各歌人は書き留めていたものでしょう。
③ 今『猿丸集』の歌を、その各々の類似歌と比較して理解しようとしているように、『古今和歌集』もその元資料と比較しつつ理解をしたい、と思います。そして『古今和歌集』編纂方法も探ってみたいと思います。
奉った姿のままの元資料が残っていませんので、『古今和歌集』記載の作者名を冠する歌集や歌合で『古今和歌集』成立以前に成立していると思われるものや『萬葉集』を元資料と見做します。また、歌の清濁抜きの平仮名表記で異同がある歌もありますが、『古今和歌集』の配列の検討には差し支えないと割り切り『古今和歌集』記載の歌を元資料の歌と原則扱って検討します。だから元資料の歌は、『猿丸集』同様に『新編国歌大観』に拠ります。
『古今和歌集』は、「仮名序」冒頭で、「(世の中にある人、ことわざしげきものなれば)こころにおもふことを見るものきくものにつけていひだせる」ものが「やまとうた」であると説き、「花になくうぐひす」などを「見るものきくもの」の例にあげています。四季の移り変わりはその一つであることがわかり、季語(季題)という捉え方もできそうです。各歌について、その季語(季題)と詠われた(披露された)場を確認し、その後『古今和歌集』の四季の部の巻の配列を検討します。時系列であると一応想定していますが、一系列の時系列の歌なのかどうかも確認します。
そのため、次に述べる視点で元資料の各歌を検討します。
④ 視点1:『古今和歌集』編纂時の元資料で詠われている季節はいつか。『古今和歌集』の歌としては全て「秋」のはずですが、それ以上の月別等は明記されていません。
そのため、季語を6区分で検討しました。即ち、初秋、仲秋、晩秋、三秋(初秋等二つ以上の可能性ありという区分)、非秋、季語無しです。 元資料における詞書や歌にある語を現代の俳句の季語(付記1.参照)により判定しましたが、歌の内容を付加して判定しています。
⑤ 視点2:『古今和歌集』編纂時の元資料の歌はどのような場で詠われているのか。
歌が披露(朗詠)された場(朝廷あるいは官人がその歌を楽しんだ場)はどこか、を8区分で検討しました。即ち、
主催者が歌人に依頼している類 歌合、屏風歌a、屏風歌b、書きだし下命、
公務及びそれに準じてもよい場(方違えなど) 宴席の歌、外出時・挨拶歌、
以上の区分に該当しない男女間の個人的応答歌、判定保留です。
各歌の判定は諸氏の研究に概ね拠っていますが、屏風歌bと宴席の歌と外出時・挨拶歌は私見によります。
歌合は、歌合または花合に出詠した歌(準備のみで終った歌も含みます)をさします。『古今和歌集』の編纂者が勝手に歌合の歌と詞書に記していないと信じ、『古今和歌集』の詞書において歌合または花合と明記されている歌をさします。例)1-1-169歌、1-1-189歌、1-1-230歌。
屏風歌aは、『古今和歌集』または『古今和歌集』編纂時の元資料において、屏風歌と明記されている歌を指します。 しかし、該当する歌はありませんでした。
屏風歌bは、上記屏風歌a以外で、ブログ「わかたんかこれの日記 よみ人しらずの屏風歌」(2017/6/23)の「2.②」で示す3条件を満たすよみ人しらずの歌を指します(付記2.参照)。屏風歌bは、歌の再利用も念頭に想定したものなので、他の場の区分と重なることがあります。
書きだし下命は、歌集の天皇への提出命令による歌です。例)千里集より採った歌
宴席の歌は、公私を問わず、上記に該当しない歌のうち宴席や会合で披露(朗詠)したと思われる歌を指します。例えば、公務で天皇・皇子からものを賜る機会の答礼に添える、その他公的宴席、『宇津保物語』にあるように民間行事の上流貴族の六月祓の一連の行事などでの歌です。
宴席で披露される官人の愛唱歌も含みますので、相聞の歌を利用している場合もあります。例)1-1-176歌、1-1-191歌
外出時・挨拶歌との区別が曖昧となるのは止むを得ません。
外出時・挨拶歌は、男女間の個人的応答歌を除き、羈旅・贈答・餞別・哀傷の類の歌を指します。
例)1-1-222歌
男女間の個人的応答歌は、作者が特定できる相聞の歌を指します。しかし、巻第四秋歌上には、有りませんでした。
⑥ 視点3:元資料の歌に『古今和歌集』の部立を適用しようとするとどの部立が可能となるか。これを、元資料の詞書に拘らず、私見によりました。
雑歌という部立は、相聞を除く、人生への不安・期待・安堵を詠う歌の類をさします。
⑦ 視点4:元資料の歌の作者の作詠態度はどのようなものか。
6区分で検討しました。即ち、
詠う対象への接近方法として、知的遊戯強い、土屋氏のいう民衆歌。
歌を聴く者への関心として、相聞、作者の私的立場を訴える、宴会用(その場を盛り上げるにふさわしい)、公的立場を賞揚・発揮する。
という区分を設けています。
土屋氏のいう民衆歌は、貴族以外の者も愛唱したであろう歌も含む伝承歌を指します。例)1-1-171歌、1-1-205歌。
宴会用(その場を盛り上げるふさわしい)は、野遊びや、ともにまかりてよめる歌や、ついでによめる歌のほか伝承歌や愛唱歌を朗詠するなど、会食や園遊という場を盛り上げようとする態度を、指します。但し公的立場を賞揚・発揮する場合を除きます。
公的立場を賞揚・発揮するは、宴会用での特殊な場合であり、また行事における歌、という類です。
この視点は、区分の重複を認めました。
3.類似歌の検討その2 巻第四秋歌上の元資料の検討
① 巻第四秋歌上は、1-1-169歌から80首あります。
② 巻第四秋歌上の各歌を、歌本文を元資料の歌本文とみなして上記の視点で判定したところ、付記3.に示す表1~表4のようになりました。秋の行事を詠った歌は七夕と女郎花合とがありました。便宜上表1には七夕の歌までを、表2に、虫を詠う歌(1-1-205歌)までを、表3に、雁の歌以降白露までを、表4に、をみなへしの歌以降の歌としています。
それを整理すると、つぎの諸点を指摘できます。
③ 視点1の区分別をみると、非秋に該当する歌は無く、季語無しが3首ありました(歌の内容は秋を詠っています)。初秋は54首(重複1首)、仲秋が1首(1-1-190歌)、晩秋の歌が15首(重複2首)ありました。そして三秋が13首(重複3首)ありました。
④ 現代の季語(の概念)を元資料の歌に当てはめた季節等の区分であるので、仲秋の歌と晩秋の歌とした季語を確認します。
仲秋の歌には季語が無く、歌の内容から「月をしむ」ならば第一候補となる八月の月と判定して仲秋としたところなので、七月の月(初秋)の歌であってもおかしくありません。現代の季語の整理が異なるだけと言えます。
晩秋の歌15首のうち10首が季語の雁により、4首がもみぢで、1首が露霜で晩秋の歌となりました。
二十四節気をもっとこまかくした七十二候をみると、貞観4年(862)1月1日から用いられた宣明暦では、七十二候の(秋分の前にあたる)白露の初候は「鴻雁来」とあります。仲秋の初めの時期にあたります。また、(秋分の次の)寒露の初候は「雁来賓」とあり、晩秋の初めの時期にあたります。また、稲・菊・大韮を言う候が各一候ありますが萩などの食用ではない植物の候はありません。
このため、月と雁を詠んでいる歌は8月とも理解可能です。「鴻雁来」の候にあたるでしょう。
1-1-208歌は「来にけり」、1-1-209歌は「はや鳴きぬる」とか初雁をイメージする歌があり、「鴻雁来」の候にあたる歌とみることができます。また、巻第五秋歌下に雁を詠う歌がないので、晩秋の雁も含めてここに配列したかとみることができます。季語として整理するなら、三秋の季語に「かり」がある、という感覚で、『古今和歌集』編纂者は元資料の歌を採りあげたという理解が出来ます。
もみぢを季語と捉えた歌のうち2首(1-1-187歌、1-1-194歌)は動詞化して用いており、 「うつろひつつ」と秋の進行を詠っていたり、月が「てりまさるらむ」と詠い晩秋に限らない景ともとれる歌であり、残りの2首(1-1-203歌、1-1-215歌)は初秋の松虫や三秋の鹿を詠んでおり、もみぢは落葉を指すと理解すれば、晩秋ではない時期を詠っている、とも理解ができます。
また、「露霜」を詠う1-1-224歌は初秋の萩の歌でもあり、「露」を強調したの「露霜」という理解も可能な歌です。
季語と言う発想をしたら一首に時期が重ならないよう季語を用いることを通常の歌人はするでしょうから、以上は現代の季語からの検討の限界です。
このように、何を主眼に歌を理解するかにより、晩秋に限定した時期の歌は無くなります。現代の季語とは違う時節の感じ方を編纂者や当時の貴族は持っていたとすれば、巻第四秋歌の80首の元資料の歌は、初秋の歌と雁を含めた三秋の歌であると言えます。
⑤ 視点2の区分別をみると、つぎのとおり。
歌合: 26首
屏風歌a: 無し
屏風歌b: 8首 (うち重複5首)
宴席の歌:38首 (うち重複6首)
外出時・挨拶歌: 13首 (うち重複2首)
書き出し下命: 1首 (1-1-185歌)
判定保留: 1首 (1-1-216歌)
以上の区分に該当しない男女間の個人的応答歌: 無し
不明:無し
⑥ 歌合の場の歌が約3割、宴席の場の歌が約5割を占めます。元資料が詠われた時代、前者は屏風歌の8首を含め専門歌人の需要が高いこと、後者は官人の勤務とその関連で宴席が多く、職場を離れてスポーツや音楽などを楽しむ場がなかった環境であったことを反映している、とみることができます。
⑦ 視点2と視点4の関係をみると、次のようになります。
表 視点2と視点4の関係
視点1 |
歌数 |
知的遊戯強い |
民衆歌 |
|||||||
のみ |
& 相聞 |
&宴会用 |
&相聞&宴会用 |
& 公的立場 |
& 私的立場 |
のみ |
&相聞 |
&宴会用 |
||
歌合 |
26 |
26 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
屏風歌b |
8 |
4 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
3 |
1 |
宴席の歌 |
38 |
8 |
1 |
3 |
5 |
1 |
0 |
1 |
16 |
3 |
外出時・挨拶歌 |
13 |
9 |
0 |
1 |
0 |
0 |
2 |
0 |
1 |
0 |
書き出し下命 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
判定保留 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
計 |
87 |
49 |
1 |
4 |
5 |
1 |
2 |
1 |
20 |
4 |
注1)視点2の区分に重複歌あり
⑧ このように、歌の優劣を競う場における歌である歌合の歌は知的遊戯が強い歌に特化し、宴席の歌では民衆歌でかつ相聞の歌も半数近くを占め、歌を披露する場の特徴が分かれています。
巻第四秋歌上には、よみ人しらずの歌が38首ありますが、知的遊戯が強い歌が21首と民衆歌が17首あります。伝承歌は、知的遊戯の要素からこの時代餞別されていたかもしれませんがそうばかりではないようであり、『古今和歌集』の編纂者は、元資料の歌がどこで詠われたかより、配列の方針に従った内容の歌を撰んでいるといえます。
⑨ 視点3の区分別をみると、つぎのとおり。恋以下は全て重複歌です。
秋:80首
恋:26首
羈旅:2首
雑:17首
雑体:(誹諧歌)2首
巻第四秋歌上は、まさに秋に寄せて詠っている歌の巻なのですが、恋の部の歌であってもおかしくない歌が3割以上あります。特に重なっています。「もの思ふ」秋を、月や動植物の景のみで詠っているのが5割に満たない状況です。
⑩ 以上の検討から、元資料の各歌は、現代の俳句の季語の区分でいうと初秋の歌と雁を含めた三秋の歌となり、80首すべてを初秋の歌として配列し得る歌である、と言えます。
現代の季語となる言葉が示す時期は、多くが当時も現代も同じ時期の感覚(例えば、七夕とかヒグラシ)ですが、現代は晩秋に配されている雁について編纂者や当時の貴族とで異なる可能性があります。
4.類似歌の検討その3 巻第四秋歌上における配列
① 『古今和歌集』では、以上検討してきた元資料の歌を、何らかの基準により配列しています。
久曾神氏は、「表現態度と歌体で記載の歌を分け、歌体が短歌の歌は、題材により自然と人事に二分して『古今和歌集』は排列し、各巻も細分している」として巻第四秋歌上は、時節(立秋・初秋・七夕・秋景)、天象(秋月)、動物(秋虫・雁・鹿)、植物(萩・女郎花・藤袴・花薄・瞿麦(なでしこ)・秋草)、巻第五秋歌下は、植物(紅葉・菊花・残菊・落葉・秋田)、時節(暮秋・九月尽)と類別している、と指摘しています。
② 四季の歌が数巻に分けられたのは何によってでしょうか。
『古今和歌集』巻第三夏歌の最後の歌は、「みなつきのつごもりの日よめる」と詞書している凡河内躬恒の歌です。太陰太陽暦の六月晦日と立秋との関係は一月一日と立春との関係と同じです(ちなみに2018年における太陰太陽暦の六月晦日は8月10日。2018年の立秋は8月7日)。
巻第四秋歌上の巻頭歌1-1-169歌は立秋を詠います。巻第三夏歌と巻第六冬歌は、立夏、立冬を意識していない詞書の歌で始まっています。四季の中でも立春と立秋に特に意識している区分と言えます。
巻題四秋歌上も厳密な時系列ではないかもしれません。
③ 『古今和歌集』における詞書が元資料の詞書と違っている歌があります。
巻頭の1-1-169歌の元資料は歌合の歌で題は「秋」です。『古今和歌集』の編纂者が詞書を「秋立つ日(を歌に)よめる」としているのは、歌に「風」を感じて「秋来ぬ」と詠っているからでしょう。季節を表わすのに中国で始まった七十二候がありますが、二十四節気の立秋は3分されその最初は立秋初候で「涼風至」と言います。
1-1-230歌の詞書は、「朱雀院の女郎花合によみて奉りける」とありますが、何回かの女郎花合を寄せ集めて配列されていると諸氏が指摘していますが、詞書はその一々に触れていません。
また、1-1-183歌は、作者が大江千里であるのがはっきりしているにもかかわらず、「よみ人しらず」としています。
さらに、1-1-244歌で詠んでいる「きりぎりす」ですが、元資料の寛平御時后宮歌合では「ひぐらし」です。たしかに前後の歌とそのほうが馴染みます。
このように、『古今和歌集』には、元資料の歌を必ずしもそのまま採用していない場合があります。
④ これらをみると、『古今和歌集』の編纂者は、秋の景として、現代の俳句の季語相当の秋の景物を選び、新たな詞書のもとに順に配列している、といえます。
秋の景物ごとに歌群として捉えると、次のように理解できます。
・ 立秋の歌:詞書に「秋立つ日よめる」と立秋を明記した歌からはじめている4首です(1-1-169歌~1-1-172歌)。
巻第四秋歌上の巻頭の2首は、巻第一春歌上と同様に秋の最初の日を詠んでいます。順調に秋を迎えたことを寿いでいる歌とみることができます。律令で大祓は半年ごとに行うことにされており、それが六月晦日大祓と師走の(朝廷が行う)大祓ですが、立春と立秋は、それと関係ありません。それでも理由はわかりませんが、朝廷と官人にとり特別の日であったようです。
・ 七夕伝説に寄り添う歌:1-1-173歌~1-1-183歌 (1-1-173歌は題しらずの3首目)
・ 「秋くる」と改めて詠む:1-1-184歌~1-1-189歌 (1-1-184歌は題しらずの1首目)
1-1-184歌~1-1-186歌と1-1-188歌は、立秋の日を詠う歌であるかもしれません。
・ 月に寄せる歌:1-1-189歌~1-1-195歌 (1-1-189歌の詞書は「・・・歌合の歌」)
巻第四において、月を詠う歌は、ここだけであり、編纂者がここに集めたのではないかと推測できる。
・ きりぎりす等虫に寄せる歌:1-1-196歌~1-1-205歌 (1-1-196歌の詞書は「・・・ききてよめる」)
・ かりといなおほせとりに寄せる歌:1-1-206歌~1-1-213歌 (1-1-206歌の詞書は「初雁をよめる」)
鹿と萩に寄せる歌:1-1-214歌~1-1-218歌(1-1-214歌の詞書は「・・・歌合の歌」)
・ 萩と露に寄せる歌:1-1-219歌~1-1-225歌 (1-1-219歌の詞書は「・・・ついでによめる」)
・ をみなへしに寄せる歌:1-1-226歌~1-1-238歌 (1-1-226歌の詞書は「題しらず」)
・ 藤袴その他秋の花に寄せる歌:1-1-239歌~1-1-247歌 (1-1-239歌の詞書は「・・・歌合によめる」)
・ 秋の野に寄せる歌:1-1-248歌 (1-1-248歌の詞書は「」・・・ついでによみて奉りける)
⑤ 巻第四秋歌上の歌には、菊が登場しません。また紅葉の名所も登場しません。久曾神氏の歌群の捉え方はこれらをもう少し大づかみしています。
5.類似歌の検討その4 巻第四秋歌上にある詞書から
① 上記4.に、歌群ごとに最初の歌の詞書も記しましたが、その詞書は、どこで詠んだかをさすことばがほとんどであり、それを示さない「題しらず」とある歌群が、七夕伝説に寄り添う歌群と、「秋くる」と改めて詠む歌群と、をみなへしに寄せる歌群の3群ありますが、直前の歌の内容との違いは明確になっています。
② この類似歌は、「きりぎりす等虫に寄せる歌(1-1-196歌~1-1-205歌 )の歌群にあり、歌群の最初の歌の詞書は、「・・・きりぎりすのなきけるをききてよめる」とありますが、2-1-198歌から最後の2-1-205歌までは「題しらず」です。ひぐらしを詠む歌は、2首だけであり並んで置かれています。その次の2-1-206歌は「はつかりをよめる」とあり別の歌群の1首目となります。
類似歌とその前後の歌とのつながりは、詞書ではなく、各歌の内容でみなければならない、ということになります。
③ 類似歌記載の『古今和歌集』の配列の検討にもう少し時間を要しますので、次回類似歌そのものの検討とともに記します。
ブログ「わかたんかこれ 猿丸集・・・」を、ご覧いただきありがとうございます。
(2018/9/3 上村 朋)
付記1.俳句での秋の季語(季題)について
① 『平井照敏編NHK出版季寄せ』(2001)は、秋(立秋から立冬の前日まで)の全体にわたる季題(三秋)と、季の移り変わりにより初仲晩に分かれる季題に分類している。
② 三秋に、「秋(高し・の空など)、月(わたる・の桂など)、さわやか(さやか)、霧、露、鹿、渡り鳥、虫(の音など)、(白)菊、花野」等を示している。
初秋に、「八月、七夕、天の川、初嵐、松虫、鈴虫、ヒグラシ、キリギリス(現在のコオロギのこと)、萩、おみなえし、ススキ(おばな・かや)、藤袴、露草(月草・うつし草)、なでしこ、秋めく」等を示している。
仲秋に、「葉月(はづき)、名月、冷ややか、月見、十五夜、十六夜、立待月、更待月(二十日月)、早稲、野菊、初紅葉、台風」等を示している。
晩秋に、「長月、夜寒、朝寒し、露霜、苅田、いのしし、雁(初雁・雁わたるなど)、つる来たる、紅葉(もみじ)、残菊、籾、椿の実、中稲(なかて)」等を示している。
なお、「霞」は三春の、「藤」は晩春の季語であり、「涼し」は三夏の、「月見草」は晩夏の季語であり、「嵐」は季語としていない。
③ これは、現代における認識である。
④ 二十四節気では、立秋から処暑、白露、秋分、寒露、霜降、立冬となる。これに対応する日本における七十二候では、立秋初候(涼風至)から、立秋次候(寒蝉鳴(ひぐらしなく))、・・・霜降末候(楓蔦黄(もみじつたきばむ))、立冬初候(山茶始開(つばきはじめてひらく))等となる。
付記2.屏風歌bの判定基準
① ブログ「わかたんかこれの日記 よみ人しらずの屏風歌」(2017/6/23)の「2.②」で示す3条件は以下のとおり。
② 『古今和歌集』のよみ人しらずの歌で次の条件をすべて満たす歌は、倭絵から想起した歌として、上記のaまたはc(下記③に記す)の該当歌であり屏風に書きつける得る歌と推定する。
第一 『新編国歌大観』所載のその歌を、倭絵から想起した歌と仮定しても、歌本文とその詞書の間に矛盾が生じないこと
第二 歌の中の言葉が、賀を否定するかの論旨には用いられていないこと
第三 歌によって想起する光景が、賀など祝いの意に反しないこと。 現実の自然界での景として実際に見た可能性が論理上ほとんど小さくとも構わない。
③ 「上記のaまたはc」とは次の文をいう。
「a屏風という室内の仕切り用の道具に描かれた絵に合せて記された歌
c屏風という室内の仕切り用の道具の絵と対になるべく詠まれた歌(上記a,bを除く)」
④ この方法は、歌の表現面から「屏風歌らしさ」を摘出してゆくものであり、確実に屏風歌であったという検証ではなく、屏風作成の注文をする賀の主催者が、賀を行う趣旨より推定して屏風に描かれた絵に相応しいと選定し得る歌であってかつ歌に合わせて屏風絵を描くことがしやすい和歌、を探したということである。
付記3.古今集巻第四秋歌上の元資料の歌の判定表
① 古今集巻第四秋歌上に記載の歌の元資料の歌について、本文の「2.類似歌の検討その1 巻第四秋歌上の元資料の分析方法」に基づき判定を行った結果を、便宜上4表に分けて示す。
② 表の注記を記す。
注1)歌番号等とは、「『新編国歌大観』記載の巻の番号―その巻での歌集番号―その歌集での歌番号」である。
注2)歌番号等欄の*印は、題しらずよみ人しらずの歌である。
注3)季語については、付記1.参照。
注4)()書きに、補足の語を記している。
注5)《》印は、補注有りの意。補注は表4の下段に記した。
注6)元資料不明の歌には、家持集の歌を含む。元資料は『新編国歌大観』による。
表1 古今集巻第四秋歌上の各歌の元資料の歌の推定その1
歌番号等 |
歌での(現代の)季語 |
視点1(時節) |
元資料と 視点2(詠われた場) |
視点3(部立) |
視点4 (作詠態度) |
1-1-169 |
秋 さやか |
初秋(秋来ぬと詠う) |
寛平御時中宮歌合 歌合 題は秋 |
秋 |
知的遊戯強い 《》 |
1-1-170 |
秋 |
初秋(元資料にも同一趣旨の詞書) |
貫之集 宴席の歌 |
秋 |
知的遊戯強い&宴会用 |
1-1-171* |
秋(のはつ風) |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌又は外出時・挨拶歌又は屏風歌b 《》 |
秋 |
民衆歌&相聞 |
1-1-172* |
秋(風) |
初秋(夏の季語さなへにより) |
元資料不明 宴席の歌又は屏風歌b 《》 |
秋・恋 |
民衆歌&相聞(もう私に飽きたという人を留めたい歌) |
1-1-173* |
秋(風) |
三秋(秋風のふきにし日よりと詠う) |
元資料不明 宴席の歌(高官の来席時など)又は屏風歌b |
秋・恋 |
民衆歌&相聞(「秋」に「飽き」をかけ飽きたという人を留めたい歌) |
1-1-174* |
無し |
初秋(七夕の伝説に寄り添う歌) |
元資料不明 宴席の歌(退席する同僚に対して)又は屏風歌b |
秋・恋 |
民衆歌&宴会用(女官が作者か。相手の人を留めたい歌&相聞 |
1-1-175* |
たなばた(づめ)、もみぢ、あまのがは |
初秋(七夕の伝説に寄り添う歌)《》 |
元資料不明 宴席の歌(来駕・登壇を促す) |
秋・雑体(誹諧歌) |
知的遊戯強い(七月七日にもみぢは無い。待ち人来たらず)&相聞&宴会用 |
1-1-176* |
あまのがは、霧 |
三秋(逢う直前の歌(逢う夜は7月7日に限らない) |
元資料不明 宴席の歌(登壇を促す。愛唱歌) 《》 |
秋・恋 |
民衆歌&相聞 |
1-1-177 |
あまのがは |
初秋(七夕の伝説に寄り添う歌) |
元資料不明 宴席の歌 |
秋・雑体(誹諧歌) |
知的遊戯強い&宴会用 |
1-1-178 |
七夕 |
初秋 (七夕の伝説に寄り添う歌) |
寛平御時后宮歌合 歌合 題は恋歌 |
秋・恋 |
知的遊戯強い。(年にひとたび、と詠う) |
1-1-179 |
七夕(姫・織姫) |
初秋 (七夕の伝説に寄り添う歌) |
歌合 題は秋歌 (躬恒集による) 《》 |
秋・恋 |
知的遊戯強い(1年後を詠い明日と詠わないから)。 |
1-1-180 |
織姫(たなばた) |
初秋 |
躬恒集にあり(題秋) 宴席の歌 《》 |
秋・恋 |
知的遊戯強い(七夕の伝説に寄り添う歌)&宴会用 《》 |
1-1-181 |
たなばた |
初秋 |
歌合(素性集より) 題は秋か |
恋 |
知的遊戯強い&相聞 (今後の約束を迫る歌。織女のひさしきほどを例に詠うから)。 |
1-1-182 |
あまのがは |
初秋(七夕の伝説に寄り添う歌) |
元資料不明 宴席の歌(宗于集の詞書から)
|
秋・恋 |
知的遊戯強い。相聞(暁によめるとあるので後朝の歌)&宴会用 |
1-1-183 |
無し |
初秋(元資料の詞書は七月八日) 《》 |
忠岑集(詞書は七月八日) 宴席の歌 |
秋・恋 |
知的遊戯強い(牽牛の立場の後朝の歌)&相聞&宴会用 |
表2 古今集巻第四秋歌上の各歌の元資料の歌の推定その2
歌番号等 |
歌での(現代の)季語 |
視点1(時節) |
元資料と 視点2(詠われた場) |
視点3(部立) |
視点4 (作詠態度) |
1-1-184* |
月、秋 |
初秋(秋は来にけりと詠う) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋・雑歌 |
知的遊戯性強い&相聞(「秋」に「飽き」をかけた歌) |
1-1-185* |
秋 |
初秋(秋くるからにと詠う) |
書き出し下命(千里集38歌) |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い (猿丸集の類似歌) |
1-1-186* |
秋、虫 |
初秋(くる秋と詠う) |
寛平御時后宮歌合 題は秋歌 《》 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い |
1-1-187* |
秋、もみぢ(つつ) |
三秋又は晩秋(もみぢを動詞化して詠むいるので) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い&宴会用 |
1-1-188* |
秋、つゆ |
初秋(「秋のよひ」と詠まず「秋くるよひ」と詠う) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌(清正集より古今集が古い)&相聞(「秋」に「飽き」をかけた歌) |
1-1-189 |
秋の夜 |
三秋 |
元資料不明(是貞親王家歌合にない) 歌合 題不明《》 |
雑歌・秋 |
知的遊戯強い(漢詩文の影響強い) 《》
|
1-1-190 |
無し |
仲秋 《》 |
元資料不明 宴席の歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い&宴会用 |
1-1-191* |
雁、秋の夜、月 |
晩秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋 |
知的遊戯性強い |
1-1-192* |
雁、月わたる |
晩秋 《》 |
萬葉集 2-1-1705歌 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・雑歌 |
知的遊戯性強い&公的立場賞揚 |
1-1-193 |
月、秋 |
三秋 |
是貞親王家歌合 題は不明
|
秋・雑歌 |
知的遊戯強い(作者大江千里が『白氏文集』の詩を翻案した) |
1-1-194 |
月のかつら、秋、もみぢ(すれば) |
三秋又は晩秋(もみぢすればと動詞で詠う) |
是貞親王家歌合題は不明(忠岑集にあり) |
秋 |
知的遊戯強い(月の桂は中国の伝説に拠ったもの。) |
1-1-195 |
秋の夜、月 |
三秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い |
1-1-196 |
蟋蟀(きりぎりす)、秋の夜 |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い(きりぎりすに事寄せたわが心の寂しさを詠む) |
1-1-197 |
秋の夜、虫 |
三秋 |
元資料不明(是貞親王家歌合にない) 歌合 題は不明 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い |
1-1-198* |
あき萩、きりぎりす |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
恋・雑歌・秋 |
民衆歌&相聞歌 (猿丸集の類似歌) |
1-1-199* |
秋の夜、つゆ、むし |
三秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-200* |
松虫 |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
恋・秋 |
民衆歌&相聞歌(松に待つをかけている) |
1-1-201* |
秋のの、松虫 |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-202* |
あきのの、松虫 |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-203* |
もみぢ、松虫 |
晩秋(もみぢが積もると詠む) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-204* |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌 |
秋 |
知的遊戯強い (猿丸集の類似歌) |
|
1-1-205* |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋雑 |
民衆歌&相聞
|
表3 古今集巻第四秋歌上の各歌の元資料の歌の推定その3
歌番号等 |
歌での(現代の)季語 |
視点1(時節) |
元資料と 視点2(詠われた場) |
視点3(部立) |
視点4 (作詠態度) |
1-1-206 |
はつ雁 |
晩秋 《》 |
元資料不明 宴席の歌 保留 |
秋・恋 |
知的遊戯強い(蘇武の故事を踏まえる)& 相聞の歌か |
1-1-207 |
秋(風)、はつかり |
晩秋 《》 |
寛平御時后宮歌合 題は秋歌(是貞親王家歌合にない) |
秋 |
知的遊戯強い
|
1-1-208* |
いなおほせどり、かり |
晩秋 《》 |
元資料不明 屏風歌b |
秋 |
知的遊戯強い 《》 (猿丸集の類似歌) |
1-1-209* |
かり、白露、もみぢ。 |
晩秋 《》 |
元資料不明 宴席の歌か&屏風歌b |
秋 |
知的遊戯強い 《》 |
1-1-210* |
かりがね、秋霧。 |
晩秋(春霞は春の季語) |
元資料不明 屏風歌b 《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-211* |
かりがね、萩 |
晩秋(萩の下葉と詠う) |
元資料不明(新撰萬葉集より題は秋歌) 宴席の歌(愛唱歌) |
秋 |
民衆歌 |
1-1-212 |
秋風、かり |
晩秋 |
寛平御時后宮歌合 題は秋歌 (但し「行く舟は」とよむ) |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-213 |
かりがね、秋の夜 |
晩秋 |
元資料不明(躬恒集に無し。伊勢集にあり。) 宴席の歌&外出時・挨拶歌 《》 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い&私的立場 |
1-1-214 |
秋、鹿 |
三秋 |
是貞親王家歌合 題は不明 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-215 |
もみぢ、鹿、秋 |
晩秋(もみぢ) |
寛平御時后宮歌合 題は秋歌 |
秋 |
知的遊戯強い (猿丸集の類似歌) |
1-1-216* |
秋萩、鹿 |
初秋 |
元資料不明 保留 《》 |
秋 |
知的遊戯強い
|
1-1-217* |
秋萩、鹿 |
初秋 |
元資料不明 屏風歌b |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-218 |
秋萩、鹿 |
初秋 |
歌合 題は不明(是貞親王家歌合に無い) 《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-219 |
秋萩 |
初秋 |
元資料不明(躬恒集になし) 外出時・挨拶歌《》 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い&私的立場 |
1-1-220* |
秋萩 |
初秋又は三秋(下葉色づくにより) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋 |
知的遊戯強い又は宴席用又は相聞 |
1-1-221* |
雁、萩、露 |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
知的遊戯強い又は宴席用又は相聞 |
1-1-222* |
萩、露 |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌《》 |
秋 |
知的遊戯強い
|
1-1-223* |
秋萩、白露 |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌《》 |
秋 |
知的遊戯強い
|
1-1-224* |
萩、露霜 |
晩秋(萩は散るらむと詠う) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞 (猿丸集の類似歌) |
1-1-225 |
秋の野、白露 |
三秋 |
元資料不明(是貞親王家歌合に無い) 歌合 題不明《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
表4 古今集巻第四秋歌上の各歌の元資料の歌の推定その4
歌番号等 |
歌での(現代の)季語 |
視点1(時節) |
元資料と 視点2(詠われた場) |
視点3(部立) |
視点4 (作詠態度) |
1-1-226* |
をみなへし |
初秋 |
遍照集 外出時・挨拶歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い |
1-1-227 |
をみなへし |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い |
1-1-228 |
秋の野、をみなへし |
初秋 |
歌合(是貞親王家歌合に無し) 題不明 |
秋・恋 |
知的遊戯強い |
1-1-229* |
をみなへし |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌 |
秋・恋 |
知的遊戯強い |
1-1-230 |
をみなへし |
初秋 |
亭子院女郎花合 題をみなへし 歌合 《》 |
秋 |
知的遊戯強い&相聞 |
1-1-231 |
秋、をみなへし |
初秋 |
元資料不明(亭子院女郎花合に無し) 歌合 題をみなへし 歌合 三条右大臣集になし《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-232 |
秋、をみなへし |
初秋 |
元資料不明(亭子院女郎花合に無し。貫之集になし) 歌合 題をみなへし 《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-233 |
鹿、をみなへし |
初秋 |
元資料不明(躬恒集になし、亭子院女郎花合にも無し) 歌合 題をみなへし 《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-234 |
をみなへし、秋風 |
初秋 |
亭子院女郎花合 題をみなへし 歌合 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-235 |
をみなへし、秋霧 |
初秋 |
亭子院女郎花合 題をみなへし 歌合 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-236 |
をみなへし |
初秋 |
元資料不明(亭子院女郎花合に無し)題をみなへしか 歌合 |
秋・恋 |
知的遊戯強い&相聞歌 |
1-1-237 |
をみなへし |
初秋 |
元資料不明 外出時・挨拶歌《》 |
秋・羈旅 |
知的遊戯強い |
1-1-238 |
をみなへし |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌 《》 |
秋・ |
知的遊戯強い |
1-1-239 |
藤袴、秋 |
初秋 |
元資料不明(是貞親王家歌合に無し。) 題不明 歌合 《》 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-240 |
初秋 |
元資料不明(貫之集に無し)《》 外出時・挨拶歌 |
秋・羈旅 |
知的遊戯強い |
|
1-1-241 |
秋の野、藤袴、秋 |
初秋 |
素性集20歌 《》 宴席の歌 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-242* |
花すすき、秋 |
初秋 |
元資料不明 宴席の歌 《》 |
秋・恋 |
知的遊戯強い |
1-1-243 |
秋の野、花すすき |
初秋 |
寛平御時后宮歌合 題は秋歌 |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-244 |
きりぎりす、(やまと)なでしこ 《》 |
初秋(なでしこにより) |
歌合 (素性集5歌に同じ) |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-245* |
秋 |
初秋(色々の花により) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋 |
知的遊戯強い |
1-1-246* |
秋の野 |
初秋(ももくさの花により) |
元資料不明 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-247* |
月草、(朝)露 |
初秋(月草により) |
萬葉集1355歌 宴席の歌(愛唱歌) |
秋・恋 |
民衆歌&相聞歌 |
1-1-248 |
秋の野 |
三秋 |
遍照集20歌 外出時・挨拶歌 |
秋・雑歌 |
知的遊戯強い&宴会用 |
③ 補注
《1-1-169歌:先行する漢詩文があるか。》
《1-1-171歌:この歌を男性の官人が記録保存していたのである。官人として披露する場は、官人と女官が同席する場があったならば女官をほめそやす歌となる。都を離れ宿泊地での接待の席でも披露できる歌である。相聞》
《1-1-172歌:宴席の閉会が近い場合などに繰り返し披露されたか。秋に飽きをかけて相聞の歌ともなり得る。又屏風歌bの条件も満足する。》
《1-1-175歌:もみぢを待っているのは織姫だから時点は七月七日。即ちまだもみぢがない時点。》
《1-1-176歌:諸氏が古い歌と評している。その歌を官人が披露(謡う)場は、宴席であろう。》
《1-1-179歌&1-1-180歌:古今集の詞書は編纂者が与えたもの。》
《1-1-180歌:七夕に供えた糸が長いように私の恋の成就には長い月日がいるかもと詠う。予祝の要素がないので屏風歌bにならない、宴席で披露した歌か。躬恒集でも屏風歌の部類に入っていない。》
《1-1-183歌:季語からは保留となるが七夕に寄せる歌なので、初秋。》
《1-1-186歌:古今集の詞書は編纂者が与えたもの。「題しらず」とする理由があるはずだが不明。》
《1-1-189歌:『新編国歌大観』記載の是貞親王家歌合に無い。元資料不明とする。記載のある小町集と宗于集の成立は古今集以後。久曾神氏曰く「秋は物思いをさせられるというが・・・観念的に秋という季節と結びつけているように思われる。それは漢詩文の影響による知的遊戯なのであろうか」》
《1-1-190歌:季語のみからは保留となる。元資料が不明であるが、古今集編纂者のひとりである躬恒の歌であるので、古今集の詞書は元資料の詞書であったと信じると「秋ををしむ歌によみけるついでによめる」とある詞書で夜を詠んでいるので月を愛でる歌と理解できる。そのため作詠時点の第一候補は八月十五夜前後と推測し、仲秋となる。》
《1-1-192歌:元資料歌は、『萬葉集』巻第九にある2-1-1705歌(雑歌)。「弓削皇子に献(たてまつ)る歌三首」という詞書のある第1首目の歌。第3首目は「くもがくり かりなくときは あきやまの もみちかたまつ ときはすぐれど」とあり、3首同時に献(たてまつ)った歌であれば、時は晩秋。古今集に四句の一字をかえて載せているのは、阿蘇氏は愛唱されて伝えられたからとしている。》
《1-1-206歌:私的な秋の会合ではないか。賀や送別の宴会での披露はふさわしくない。相聞の歌として女が男におくるという立場の歌にもなり得る。》
《1-1-206歌~1-1-210歌:かりは、七十二候の見方を踏まえるか。》
《1-1-210歌:公忠集にあるが古今集後の成立。》
《1-1-213歌:作者は古今集成立時存命。古今集の詞書は元資料による、と推定
した。作者躬恒の述懐とすれば、官位のあがらぬことを上司に嘆いた歌か。個人的にあるいは宴席で訴えた歌か。 》
《1-1-216歌:屏風歌bでもなく宴席の歌にもふさわしくない。「なくらむ:と推理しているので、歌合か。その判定基準を設けられなかったので、保留とする。》
《1-1-218歌&1-1-228歌&1-1-239歌:この3首敏行の歌。古今集の詞書を信じる。みな歌合。》
《1-1-219歌&1-1-225歌&1-1-231歌~1-1-233歌:作者は古今集成立時存命。古今集の詞書は元資料による、と推定した。》
《1-1-222歌&1-1-223歌:契沖の贈答歌説に従う。外出時・挨拶歌。》
《1-1-230歌:詞書は編纂者が与えたもの。朱雀院主催のいくつかの花合を編纂者が統合したと推定した。》
《1-1-237歌:作者兼覧王は古今集成立時存命であり、古今集の詞書は元資料による、と推定した。そのため外出時・挨拶歌となる。》
《1-1-238歌:作者平貞文は古今集成立時存命。古今集の詞書は元資料による、と推定した。そのため宴席の歌となる。》
《1-1-240歌:作者は古今集成立時存命。1-1-237歌に同じ。》
《1-1-241歌:作者は古今集成立時存命。1-1-238歌に同じ。》
《1-1-242歌:花すすきは女の意ともなる。恋の歌でもあるので宴席の歌。》
《1-1-244歌:元資料の寛平御時后宮歌合では、ひぐらし。編纂者が「きりぎりす」と替えたか。》
(付記終り 2018/9/3 上村 朋)