わかたんかこれの日記 禊するのは誰 たつたのやまはどこにある

2017/3/29     禊するのは誰 たつたのやまはどこにある

今年は酉年ですが、酉ならぬ鳥、それも古の鶏の名称のことが気になっています。

「ゆふつけとり」です。『古今和歌集』のよみ人しらずの歌に登場したとき、戸惑いました。その歌は、

たがみそぎ ゆふつけ鳥か からころも たつたの山に をりはへてなく

という、『古今和歌集』の995番目にある歌です。

この歌で、作者が何を語りかけてきているのか、あるいはなにを訴えようとしているのか、それがわからりませんでした。

 「みそぎ」をすることと「ゆふつけ鳥」がなくこととが、どのような関係になっているのか、諸氏の説明でもわからなかったのです。

 ゆふつけ鳥が鶏ならば、この歌では、人家も無さそうな山に(あるいは山近くに)家禽である鶏(ゆふつけ鳥)がいることに、古今和歌集の撰者はなぜ違和感を抱かなかったのか、と思いました。

そのほか、この歌の前にある歌に詠まれている「たつた山」とこの歌の「たつたの山」のイメージが違うと感じました。

それで、調べたり、考えたりしました。最初は、ゆふつけ鳥、という用語から調べ始めました。

そして、『古今和歌集』は、興味津々の書物だということに、改めて気が付きました。

分かってきたことが、例えば、次のようにありますので、(はてなのブログに)記事としてまとめ、誰でも確認できるようにしておこうと思います。

第一 鳥の名称として「ゆふつけ鳥」と表現した歌は、勅撰集に48首あり、先にあげた歌は、最古の歌のひとつである。また、ゆふつけ鳥とみそぎという二つの表現が一首のうちにある歌は、勅撰集には「たがみそぎ・・・」の歌だけであり、現在読むことのできる歌集を調べても3首しかない。『萬葉集』には、「ゆふつけ鳥」を詠った歌がない。

第二 「ゆふつけ鳥」は、『続後撰和歌集』にある「兵部卿元良親王家歌合に、暁別」と詞書のある、よみ人しらずの歌(同和歌集の821歌)が詠まれて以後、鶏の異名として確定し、鳴く時間帯も暁が定番となった。それ以前の歌における「ゆふつけ鳥」は、にわかに鶏と断定できない。

第三 からころも、という表現は、貫之らがアイデアをだして活用した。

第四 たつたかは、たつたの山の存在は、屏風の文化のたまものである。屏風絵の中にそれらはある。

第五 をりはへて(なく)、という表現は、『萬葉集』にない。『古今和歌集』の成立時点を905年とすると、この年以前に詠まれたと思われる歌の4首にこの表現があり、1首(この「たがみそぎ・・・」の歌)ではゆふつけ鳥がなき、ほかの3首ではほととぎすがなく、と詠まれている。

第六 「みそぎ」は、女性でも男性でも、どこででもできる。

等々。

なお、これらの指摘がすでに公表されている論文・記事等にあれば、この記事はその指摘を確認しようとしているものです。

 

それでは、最初に、ゆふつけ鳥、という用語を調べた結果を記します。

① 『新編国歌大観』(角川書店)という書籍には、『古今和歌集』の「たがみそぎ・・・」の歌は、多少のバリエーションがありますが、この歌集のほか20の歌集に登場します。勅撰集を記載している第1巻の『古今和歌集』から、第10巻の『色葉和歌集』の20の歌集です。

② どの歌集にある「たがみそぎ・・・」の歌が最初に詠まれた歌かの検討が、必要です。

諸氏は、『古今和歌集』の歌を第一候補としてあげています。

歌が記載されている合計21の歌集の成立時点を重視して検討すると、『古今和歌集』の成立時点(今、それを905年として論を進めます)以前に成立した可能性があると思われる歌集に『猿丸集』があります。『猿丸集』の成立時点を、諸氏は、藤原公任の三十六歌撰の成立(1006~1009頃)以前であることは確かである、と言っています。つまり、『古今和歌集』以前であるという可能性が否定されていません。

そのため、止むを得ず私は、最初に詠まれた歌を記載した歌集の候補として、『古今和歌集』とともにこの歌集を、残しておきます。

『猿丸集』(和歌総数は52)は、雑簒の古歌集で、前半は万葉集の異体歌と出典不明の伝承歌、後半は古今集の読人不知と万葉集歌であることがわかっています。

③ そして、「たがみそぎ・・・」の歌のように幾つもの歌集に重複して記載のある歌は、『新編国歌大観』で若い巻数に記載の歌を代表歌として、以後の検討を進めます。

④ 『新編国歌大観』には、本文を、清濁を無視して平仮名で表記すると「ゆふつけとり」となる歌が、503首あります。重複している歌を除くと、349首になり、そのうち勅撰集にあるのが48首です。

勅撰集で「ゆふつけとり」と表記されている歌は、諸氏が指摘しているように、

1番目の勅撰集『古今和歌集』に4首、次の『後撰和歌集』に1首ありますが、3番目の『拾遺和歌集』から7番目の『千載和歌集』までは1首もありません。

そして8番目の『新古今和歌集』に1首あり、以後ないのは15番目の『続千載和歌集』と17番目の『風雅和歌集』だけで、最後の『新葉和歌集』には4首あります。

これからみると、「ゆふつけ鳥」という言葉は、『古今和歌集』と『後撰集』の編纂の時代またはそれ以前に生まれた言葉であり、以後いったん歌人が遠ざけた言葉であると思われます。

また、『後撰和歌集』以後『新古今和歌集』まで歌集の成立の期間としても約250年離れており、『新古今和歌集』の時代以後は新たな意味合いが付与されたのではないかという推測も生じ、その確認を要します。

⑤ 歌集だけでなく、歌自体も、その歌の詞書や各種の記録からその作詠時点を推定あるいは確定が可能です。

また、鳥の名称としての「ゆふつけ鳥」は、歌の本文では、「ゆふつけのとり」と表記されたり、「ゆふつけになくとり」、「ゆふつくるとりの」などと表現されている場合もありました。

そのため、「ゆふつけ・・・」という表記と「ゆふつくる・・・」という表記のある歌も対象に、「ゆふつけ鳥」の歌を検索し、作詠時点順に並べて、比べて見てみました。

その作業から先の指摘などが生まれました。

⑥ 次回は、作詠時点順に並べた歌を、記します。

 御覧いただき、ありがとうございます。